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技術機関誌 SI NEWS日立ハイテク

Developing an inline X-ray contaminant tester

株式会社 日立ハイテクサイエンス
開発設計本部 分析設計部
高原稔幸

政府は2050年までに地球温暖化防止を目的に、温室効果ガスの排出を全体としてゼロとするゼロエミッションを掲げ、CO2や環境負荷物質を排出しない優れた環境性能をもつ燃料電池自動車の普及を期待している。トヨタ自動車は2014年12月に燃料電池自動車「MIRAI」を販売しており、昨年12月に新型「MIRAI」を発売している。新型「MIRAI」は、旧型から多くの点で高性能化が図られ、要の燃料電池にも大きな改良が加えられた。
燃料電池はセル内で、触媒などを用いて水素と酸素を化学反応させて発電するが、1つのセルは発生電圧が低いため、これを積層することで必要な電圧を得ている。
新型「MIRAI」の燃料電池スタック(FCスタック)では、セルの電解質膜の膜厚を従来より薄くすることでプロトン伝導度を向上させるなどの効率化が図られた。一方で、膜厚を薄くすると、内部に製造過程で混入した微小な鉄などの特定の元素の金属異物の影響が相対的に大きくなり、膜の化学劣化への耐性寿命が短くなる。FCスタックの品質を保証するためには、この金属異物が混入したセルを製造から除外する必要がある。
この品質保証に、日立ハイテクサイエンスの「X線検査技術」が大きく貢献している。トヨタ自動車は、「MIRAI」のFCスタックの製造ラインに、同社の検査技術を導入し、インライン検査による全数検査を行うことで、高い品質のFCスタックの量産化を可能にした。 FCV量産化の影の立役者ともいえる、この検査ラインの構築は、どのような技術革新によりなし得たのか、担当者に取材した。

高い評価を得たX線異物解析装置「EA8000」

これまで日立ハイテクサイエンスは、リチウムイオン二次電池で燃料電池と同様に課題となっている金属異物の検出から組成分析までを行うX線異物解析装置(EA8000)を2013年に開発していた。
EA8000は250×200mmサイズの試料から20 μm以上の金属異物は数分で検出可能な検査装置で、高速に撮像した透過X線像の全面に画像処理を行い異物ポイントを自動検出し、異物ポイントを蛍光X線分析することで元素同定する。従来の蛍光X線分析のみでは検査に10時間程度を要していたが、レントゲンにも使われる透過X線を共に用いるハイブリッドな手法を採用し、X線集光素子を用いたビームサイズが小さく輝度が高いX線照射システムや検出器を新たに開発することで、従来比100倍の迅速な試料内部の金属異物の検出を可能にしていた。トヨタ自動車のFC製造部はEA8000のユーザーであり、それが今回の「MIRAI」製造ラインのインライン検査への技術導入に繋がった。

図1. 異物検出から元素分析まで「EA8000」による測定

図1. 異物検出から元素分析まで「EA8000」による測定

チームワークが短期間での開発を達成させた

トヨタ自動車からは2018年12月頃に提案があり、共に導入のためのカスタマイズに取り組んだという。
まず第1に、インライン検査に導入するにはより速い検査速度が必要とされた。
そこで導入にあたり、 X線透過イメージング法だけに検査法を絞り、当時さらなる高速化をめざして開発していたX線カメラを新たに採用することで検査に必要とされる精度と速度を担保することに成功した。またインライン検査への導入のために、混入が問題になる金属種がより強調されるX線の波長域を採用している。
インライン検査を行うための搬送システムを含む検査装置は、トヨタ自動車の製造工場で必要とされる設備仕様に即座に準拠する必要があったため、経験豊富な設備メーカーに協力を求めて製作された。設備メーカーは、いままで経験のないX線検査設備の製作に懸念を抱いていたが、日立ハイテクサイエンスの細かい要求に応え積極的に試作機の製作に取り組んでくれたという。3社がチームとなって、インライン検査のための装置開発に取り組むことで、提案から約半年の短期間で試作機の開発を達成した。
「製作の過程で、トヨタ自動車さんから多くの指摘事項を頂き、また様々な部門の方からの意見も頂きました。指摘に添った改良は大変でしたが、それに取り組むことで完成度が上がっていくことを実感しながら尊敬の念と共に取り組めたと思います。日立とトヨタ自動車さん、設備メーカーさんの3者がチームのように製作に携わり、チームで行うものづくりの楽しさもあり、また最先端の製造技術に関わる仕事に携われて、エンジニアとしてとてもよい経験になったと思っています」(高原)。

ニーズに応え、新たな機能とサービスを開発

試作機を導入後には、金属異物の表面積を推定する技術開発に取り組んだ。もともと、X線による検査では異物は陰として濃淡のある黒い点(スポット)で検出され、平面的な情報しか得られない。一方で、セルの品質保証には異物の種類や平面的な大きさだけでなく、異物の表面積という立体的な情報も求められていた。
日立ハイテクサイエンスの解像度の高いX線透過像は、異物が厚ければそれだけX線吸収が増えて濃く表示される性質をもっている。一方で、同じ厚みであっても平面的な大きさが異なると濃淡に変化が生じる事が確認されていた。この事象は、「光の回折現象」の影響によるものと考えられ、この事が今回の検査技術を生み出す ‘ヒント’となった。
そこでトヨタ自動車から、黒い点の濃淡から表面積を推定することができないかという提案を受け、黒い点の濃淡と金属異物の表面積に相関があるか、異物サンプルを作製し、日立-トヨタ間で検証を繰り返した。日立ハイテクサイエンスが開発していた集束イオンビーム(FIB)を使うことで、検証実験に必要な超微細な厚みの異なる複数の異物サンプルを作製することができたという。
ほぼ想定する結果が得られたため、これを実機には適用。黒い点の濃淡で異物の立体サイズを数秒で推定して検査結果を出すことのできるシステムの構築に成功した。
また、この検査装置は、X線源の交換をユーザー自身が行うことのできる仕様にしている。従来、X線源の交換は日立ハイテクサイエンスのサービスマンが行うことを基本にしてきたが、24時間稼働する製造工場での利用を考慮して設計されている。この仕様に伴い、より簡単にX線源を交換できる形状や、交換後に自動でX線の調節を含めたウォーミングアップを行うシステムの開発が行われ、装置に適用された。こうしたユーザーフレンドリーな仕様はサービスを提供する同社にとっても有益で、今後、海外の顧客への適用も検討しているという。

図2. 異物の個数とサイズ管理「EA8000」

図2. 異物の個数とサイズ管理「EA8000」

もっと速く、歩留まりを改善させる

今回、燃料電池のインライン検査への技術導入を行ったが、リチウムイオン二次電池のインライン検査では、さらなる高速化が求められている。また業界全体の課題として、過検出や誤検出の発生頻度の多さがある。
現在、日立ハイテクサイエンスは、さらなる高速化をめざして新たなX線カメラの開発を行っており、現在より10倍程度の高速化が見込まれている。過検出や誤検出の課題に対しては、蛍光X線分析による元素分析や、波長の調節により、より正確に金属異物を検出できる技術開発を続けている。
「我々はお客様からの、もっと速く検査したい、歩留まりを上げたい、という2つの要求に応える必要があると思います。この要求はトレードオフの関係にあり、誤検出や過検出に対する課題はまだ多く残されています。この要求に応えられるような技術開発をめざし、今後もがんばりたいと思います」。

「先日の日曜日に新型「MIRAI」のTVCMを初めてみました。いつもはリモコンで飛ばしてしまうCMを食い入る様に見ました。ほんの数十秒間ですが、我々のようなたくさんのメーカーが知恵を絞り、低炭素社会実現に向けた1つの形を世に提案できた、日立ハイテクサイエンスのX線検査技術が日の目を見たような気がして、心が熱くなりました」(高原)。

(取材:SI NEWS編集事務局 記事:飯山 愛)

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(日立評論 2016年5月号 )

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